お稽古の先生から「今年の初釜、正客をお願いね」と言われて、どきっとしたかたもいらっしゃるのではないでしょうか。正客はお客さまの代表として、亭主と言葉を交わす大切な役目です。「最初になんと言えばいい?」「お道具のことはどう聞けば?」と、当日が近づくほど気になってしまいますね。
この記事では、初釜で正客がする挨拶の言葉を、席入りから退出までの場面ごとにまとめました。あわせて、初釜のご案内をいただいたときのお返事の書き方と例文、前日の「前礼」の考え方も紹介します。
なお、茶道の作法は流派や社中(教室)によって細かなちがいがあります。ここで紹介するのは一般的な流れと言葉の例です。最後は先生や先輩に確認して、社中のやり方に合わせてくださいね。
初釜とは?正客がつとめる役割
初釜(はつがま)は、新しい年に初めて釜をかけて催すお茶会・茶事のことです。先生が社中の生徒を招き、一年のはじまりを祝います。お稽古場で行う簡素な会から、懐石や濃茶のある正式な茶事まで、かたちはさまざまです。
正客は「お客さまの代表」
お客さまのうち、いちばん上座に座るのが正客(しょうきゃく)です。そのあとに次客(じきゃく)、三客……と続き、末席に座る人を詰(つめ)またはお詰めと呼びます。
正客の主な役割は、次の3つです。
- お客さま全員を代表して、亭主(先生)に新年のあいさつとお礼を述べる
- 掛物やお花、お道具、お菓子などについて、亭主にたずねる(問答)
- 連客の先頭に立ち、席の進み具合を見ながら声をかける
ほかのお客さまは正客の動きにならって進むので、正客は席の「進行役」でもあります。とはいえ、完璧な所作が求められているわけではありません。初めての正客なら、先生もそのつもりで助けてくださいます。
正客を頼まれたら、先に確認しておきたいこと
- 当日の流れ(お稽古場での初釜か、懐石・濃茶のある茶事か)
- 社中で決まっている挨拶の言葉や、問答のタイミング
- ご祝儀や会費の有無と、表書き(社中の慣例に合わせます)
- 前日の「前礼」をどうするか(訪問か、電話・手紙か)
わからないことを先生に聞くのは、失礼ではありません。むしろ「正客をつとめるために準備している」という気持ちが伝わります。
初釜の流れと、正客が挨拶する場面
懐石や濃茶のある茶事形式の初釜では、おおよそ次の順に進みます。お稽古場での初釜では、このうちいくつかが省かれることも多いです。
| 場面 | 正客がすること |
|---|---|
| 寄付き・待合 | 連客にあいさつ。白湯などをいただく |
| 席入り | 先頭で席に入り、床の間・お釜などを拝見して座る |
| 亭主とのあいさつ | 総礼のあと、新年のあいさつとお招きへのお礼を述べる |
| 初炭 | 炭点前を拝見し、香合の拝見をお願いする |
| 懐石 | お料理やお酒をいただく(社中によっては省略) |
| 中立ち | いったん席を出て、亭主が席を改めるのを待つ |
| 濃茶 | お菓子・濃茶をいただき、お茶銘・お詰めなどをたずねる |
| 薄茶 | 薄茶をいただき、「お仕舞い」をうながしてお道具を拝見する |
| 退出 | 一日のお礼を述べて退出する |
挨拶や問答は、場面ごとに「短く、心をこめて」が基本です。次の章で、それぞれの場面の言葉を見ていきましょう。
正客の挨拶|場面ごとの言葉の例
ここでは、よく使われる言い回しを紹介します。○○の部分は、その日の状況に合わせて入れかえてください。
寄付き・待合で、連客へのあいさつ
お客さまがそろったら、正客から連客にひとことあいさつをしておくと、その後がなめらかです。
本日、正客をつとめさせていただきます○○でございます。
不慣れではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。
総礼のあと、亭主への新年のあいさつ
席入りをすませて全員が座ると、亭主が茶道口に出て、客と総礼(全員でのおじぎ)をします。正客が「どうぞお入りください」と声をかけるかたちもあります。亭主が席に入ったら、正客は扇子を膝前に置き、新年のあいさつをします。ここが正客のいちばん大切な挨拶です。
入れたいのは「新年のお祝い」「昨年一年のお礼」「初釜に招いていただいたお礼」の3つです。
新年あけましておめでとうございます。
旧年中はたいへんお世話になりました。
本日はおめでたい初釜のお席にお招きいただき、誠にありがとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
正客の挨拶のあと、次客以下が続けてあいさつをしたり、全員で「おめでとうございます」と声をそろえたりと、社中によって進め方がちがいます。正客の挨拶は長くしすぎず、亭主のことばを受けて応えるくらいの気持ちで大丈夫です。
床の掛物・お花をたずねる言葉
床の間の掛物(軸)やお花は、亭主がその日のために選んだものです。正客が代表してたずねます。
本席のお掛物は、どなたのお筆でございますか。
(読み方をたずねるとき)どうぞお読み上げくださいませ。
お見事なお花でございますね。お花入れは。
初釜の掛物には、新年にちなんだ言葉が選ばれることがよくあります。読み上げてもらったら「おめでたいお言葉でございますね」などと、ひとこと感想を添えると会話がつながります。
お菓子とお茶をいただくとき
お菓子をすすめられたら、連客にひと声かけてからいただきます。濃茶をいただいたあと、亭主に服加減(お茶の練り加減)をたずねられたら、感想を短く伝えます。
(お菓子をすすめられて、連客に)ではご一緒に。
(服加減をたずねられて)大変結構でございます。
濃茶のあとの問答(お茶銘・お詰め・お菓子)
濃茶をいただいたあとには、正客が亭主にお茶やお菓子のことをたずねる「問答」があります。問答のタイミングは、流派や社中によって異なります。
お茶銘は。
お詰めは(どちらでございますか)。
お菓子のご銘は。
ご製は(どちらでございますか)。
「お詰め」はお茶を詰めた茶舗、「ご製」はお菓子をつくった菓子舗のことです。答えを聞いたら「ありがとうございます」とお礼を添えます。
お道具を拝見するとき・薄茶の終わりに
お点前が終わりに近づいたら、正客から拝見をお願いします。薄茶では、連客が十分にいただいたかを見て、亭主に「お仕舞い」をうながすのも正客の役目です。
(濃茶)お茶入れ、お茶杓、お仕覆の拝見を。
(薄茶)どうぞお仕舞いくださいませ。
(薄茶)お薄器、お茶杓の拝見を。
退出のときのあいさつ
最後に、亭主に一日のお礼を伝えます。
本日は、新しい年にふさわしいおめでたいお席にお招きいただき、誠にありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
正客の挨拶で気をつけたいこと
「あけましておめでとうございます」はいつまで使う?
初釜は1月上旬から中旬に開かれることが多いものの、1月下旬に行う社中もあります。新年のあいさつをいつまで使うかは、はっきりした決まりがあるわけではなく、松の内(1月7日まで、地域によっては15日まで)を過ぎたら控える、という考え方もあります。迷ったら社中の先輩に聞いておくと安心です。言いかえるなら「本年もどうぞよろしくお願い申し上げます」がつかいやすい言葉です。
流派によるちがいは、先生のやり方に合わせる
表千家・裏千家・武者小路千家など、流派によって所作や言い回しには細かなちがいがあります。初釜の主菓子ひとつとっても、裏千家では「花びら餅」がよく知られています。この記事の言葉は一般的な例として、実際には先生や社中のやり方を優先してください。
言葉を忘れてしまっても大丈夫
初めての正客で言葉が出てこなくなっても、あわてる必要はありません。亭主である先生は、生徒が正客をつとめることをよくわかっています。ていねいな言葉より、「お招きいただいてうれしい」という気持ちが伝わることのほうが大切です。
初釜のお招きへの返事の書き方
初釜のご案内は、年末までに手紙や案内状で届くことが多いものです。お返事は、亭主が人数を決めて準備を進めるための大切な連絡でもあります。
返事はできるだけ早く
お返事は、案内状を受け取ったらできるだけ早く出しましょう。目安は2〜3日以内、遅くとも1週間以内です。亭主は出欠がそろわないと、懐石やお菓子、お道具の準備を決められません。
封書で届いたら、封書で返す
- 封書で案内状が届いたら、お返事も封書で返すのが丁寧です(はがきは略式とされます)
- 返信用のはがきが同封されているときや、大寄せの茶会でははがきの指定に従ってかまいません
- 便箋は白無地のものか、改まったお返事なら巻紙に縦書きで。筆や筆ペン、万年筆で書きます
- 稽古場でのお誘いや、メール・LINEで案内が来たときは、同じ方法でお返事してかまいません
返事の基本の構成
- 頭語(拝復)と時候の挨拶
- ご案内いただいたお礼
- 出欠の返事と、日時の確認(「○月○日○時に参上いたします」)
- 相手の体を気づかう結びの言葉と、結語(敬具)
日時を書いておくと、亭主にとって確認の意味にもなります。
返事の例文①出席するとき
拝復 師走の候、先生にはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
このたびは初釜のご案内をいただき、誠にありがとうございます。
一月○日○時、喜んで参上いたします。新しい年のはじめに先生のお席に寄せていただけますことを、今から楽しみにしております。
寒さ厳しき折、どうぞお体を大切になさってください。
まずは御礼かたがたお返事まで。
敬具
十二月○日
○○○○
○○先生
返事の例文②正客をお引き受けするとき
拝復 師走に入り、寒さもひとしお身にしみる頃となりました。先生にはお変わりなくお過ごしのことと存じます。
このたびは初釜のご案内とともに、正客のお役目をお申しつけいただき、身に余ることと恐縮しております。
未熟者ではございますが、精一杯つとめさせていただきます。当日は一月○日○時に参上いたします。
お忙しい年の瀬かと存じますが、どうぞご自愛くださいませ。
敬具
返事の例文③欠席するとき
欠席のときも、まずお招きへのお礼を述べ、残念な気持ちとお詫びを添えます。理由はくわしく書かなくてもかまいません。
拝復 師走の候、先生にはお健やかにお過ごしのことと存じます。
このたびは初釜にお招きいただき、誠にありがとうございます。
せっかくのお心遣いをいただきながら、あいにく当日はやむを得ない用事のため、伺うことがかないません。誠に申し訳ございません。
皆さまにもどうぞよろしくお伝えくださいませ。
寒さ厳しき折、どうぞご自愛ください。
敬具
前日の「前礼」はどうする?
前礼(ぜんれい)は、茶事の前日に亭主を訪ねて「明日うかがいます」とあいさつすることです。本来は亭主の家の玄関先で手短にすませるものとされますが、いまは準備のさまたげにならないよう、電話や手紙ですませることも多くなっています。社中でのやり方を先生や先輩に確認しておきましょう。
正客が連客の出欠をとりまとめて、まとめて伝えると、亭主にとって親切です。
初釜のあとのお礼状(後礼)も忘れずに
初釜が終わったら、できるだけ早く、目安として3日以内にお礼状を出します。これを後礼(ごれい)といいます。お礼状の書き方と例文は、こちらの記事でくわしく紹介しています。
改まったお返事は、巻紙で
初釜のお返事やお礼状は、茶道の先生へ出す改まった手紙です。便箋でも失礼にはあたりませんが、巻紙に筆で書いたお返事は、それだけで「きちんと準備してくれた」という気持ちが伝わります。
和心工房の「出雲和紙巻紙(三椏・無地)」は、島根県八雲町で漉かれた三椏(みつまた)100%の巻紙です(幅18.8cm×長さ10m)。なめらかな紙面で、筆や筆ペンの運びがよく、お返事にも後礼にも使えます。

色つきや雲紙の巻紙もあります。巻紙の書き方や折り方は「巻紙の手紙の書き方」をご覧ください。
初釜の正客でよくある質問
正客は誰がつとめるもの?
一般には、社中のなかで茶道の経験が長いかたや、亭主が指名したかたがつとめます。初釜では先生が生徒に経験を積ませるため、あえて若手に正客を頼むこともあります。頼まれたときは、ありがたくお引き受けして、わからないことは先生に聞いておきましょう。
ご祝儀は必要?
会費制の初釜なら、ご祝儀はいらないことが多いです。ご祝儀を包む場合は新札を用意し、表書きは「御年賀」などとしますが、金額や表書きは社中の慣例によってちがいます。先輩にそっと聞いておくのがいちばん確かです。
懐紙や扇子は、何を持っていけばいい?
初釜には、懐紙・菓子切り・扇子・帛紗(ふくさ)など、お稽古と同じ持ち物を用意します。懐紙の使い方は「初釜での懐紙の使い方」で紹介しています。
まとめ|正客の挨拶は「お祝い・お礼・お招きのお礼」の3つ
- 亭主への新年のあいさつは「新年のお祝い」「昨年のお礼」「お招きへのお礼」の3つを入れる
- 掛物・お花・お茶・お菓子は、正客が代表してたずねる(問答)
- 言い回しやタイミングは流派・社中で異なるので、先生のやり方に合わせる
- 初釜のご案内には、できるだけ早く、封書でお返事を。改まった返事は巻紙で
- 初釜のあとは、3日以内を目安にお礼状(後礼)を
