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出雲民藝紙(いずもみんげいし)とは?

一枚の紙が、日々の暮らしを少しだけ豊かにしてくれるとしたら、素敵だと思いませんか? 手紙を書いたり、贈り物を包んだり、インテリアとして飾ったり。そんな日常のひとコマで、心なごむ美しい和紙を使えたら……。

でも、「和紙って種類が多くてよくわからない」「特別なもので、普段使いは難しそう」と感じている方も多いかもしれません。

そんなあなたにこそ知ってほしいのが、島根県松江市で今も手漉きで作られている『出雲民藝紙(いずもみんげいし)』です。

これは、かつて衰退しかけた出雲の和紙を、人間国宝・安部榮四郎(あべ えいしろう)が生涯をかけて再生させた、用の美の結晶。民藝運動の父・柳宗悦に「日本の紙のあるべき姿」とまで言わしめた、素朴ながらも力強い魅力にあふれています。宍道湖の美しい夕景を映したと言われる芸術的な『出雲雲紙』は、見る人の心を惹きつけてやみません。

この記事では、そんな出雲民藝紙の歴史から、原料ごとの特徴、暮らしを彩る使い方まで、その奥深い世界の扉を開きます。さあ、あなただけのお気に入りの一枚を見つける旅に出かけましょう。

目次

出雲民藝紙(いずもみんげいし)とは|人間国宝が再生させた用の美

島根県の出雲地方は、奈良・正倉院の文書にもその名が記されるほど、古くから和紙の産地として知られていました。

その歴史が大きく花開いたのは江戸時代のことです。松江藩の藩祖・松平直正が、故郷の越前から紙漉き職人を招き、藩の事業として紙づくりを奨励したことで、出雲の和紙産業は大きく発展しました。

出雲民藝紙の工房の様子

民藝運動との出会いと「出雲民藝紙」の誕生

現在の松江市八雲町でも、江戸中期から紙漉きが始まり、最盛期には30戸もの工房が軒を連ねていたと言われます。しかし、時代の流れとともにその数は減少し、一時は衰退の危機にありました。

その伝統を再生させる転機となったのが、昭和6年(1931年)のことです。民藝運動の創始者である柳宗悦(やなぎ むねよし)がこの地を訪れ、地元の紙漉き職人・安部榮四郎(あべ えいしろう)の和紙に出会います。柳は榮四郎の紙を絶賛し、これをきっかけに榮四郎は柳の指導のもと、民藝の思想を取り入れた紙づくりに邁進します。

こうして、伝統技術を基盤としながら、日常の暮らしで使える「用の美」を追求した「出雲民藝紙」が誕生したのです。

出雲民藝紙の最大の特徴「原料の持ち味を活かす」

出雲民藝紙の最大の特徴は、原料となる植物繊維の持ち味を最大限に引き出すことにあります。

  • 楮(こうぞ)は、楮らしく力強く。
  • 三椏(みつまた)は、三椏らしく滑らかに。
  • 雁皮(がんぴ)は、雁皮らしく光沢豊かに。

それぞれの繊維の個性を殺さずに漉き上げることで、素朴でありながらも、力強く堂々とした男性的な魅力にあふれた紙が生まれます。

出雲雲紙(いずもくもがみ)|宍道湖の夕景を映した芸術品

出雲民藝紙を代表する意匠が、安部榮四郎が考案した「出雲雲紙(いずもくもがみ)」です。これは、榮四郎が故郷の宍道湖(しんじこ)に沈む夕日の美しさに感銘を受け、その情景を和紙の上に表現しようと生み出した技法です。

まず地となる色の紙を漉き、そのまだ湿った紙の上に、様々な色に染められた繊維を薄く溶かして、まるで雲のように流しかけて作られます。水面に映る雲、季節ごとに刻々と変化していく空の美しさが、一枚の和紙の上に見事に表現されています。

出雲雲紙
出雲雲紙
宍道湖の夕景
宍道湖の夕景

出雲民藝紙の選び方|原料・サイズ・厚さの基準

出雲民藝紙は、その豊かなバリエーションの中から、自分の目的に合った一枚を選ぶ楽しみがあります。選び方のポイントは大きく分けて「原料」「サイズや厚さ」の2つ。それぞれの特徴を知ることで、より深く出雲民藝紙の世界に触れることができます。

原料で選ぶ(雁皮・三椏・楮)

用途に合わせて原料から選ぶことができます。

  • 雁皮紙:光沢があり、虫や水に強く保存性が高いため、長期保存したい文書や書などに最適です。
  • 三椏紙:滑らかで筆の滑りが良く、印刷にも向いているため、便箋や名刺など日常使いに適しています。
  • 楮紙:繊維が長く非常に丈夫なため、障子紙や本の装丁、版画用紙など、耐久性が求められる用途に向いています。

サイズ・厚さ・耳付きで選ぶ

出雲民藝紙は「大判(約62×100cm)」や「長判(約42×135cm)」といった規格があり、障子やタペストリーなど大きなものにも使えます。厚さも「紙幣」「半紙」「画用紙」などを目安に指定でき、手漉き和紙ならではの四方のフサフサした「耳」を活かした作品作りも楽しめます。

出雲民藝紙の用途アイデアと購入方法

丈夫で美しい出雲民藝紙は、伝統的な使い方だけでなく、現代の私たちの暮らしの中でも様々な形で活躍します。ここでは具体的な活用アイデアと、実際に手に入れるための方法をご紹介します。

暮らしに取り入れるアイデア

出雲民藝紙は、書道や日本画だけでなく、様々な用途でその魅力を発揮します。

  • クラフト:御朱印帳や和綴じ本、ラッピング、ブックカバー
  • ステーショナリー:便箋、封筒、名刺(活版印刷との相性も抜群です)
  • インテリア:障子、襖、アートパネル、照明のシェード

購入・見学・体験情報

出雲民藝紙は、松江市八雲町にある「安部榮四郎記念館」のミュージアムショップや、公式オンラインストアで購入できます。記念館では榮四郎の作品や民藝運動ゆかりの品々を見学できるほか、隣接する工房では、予約をすれば紙漉き体験も可能です。

出典:
出雲民芸紙「安部榮四郎記念館」安部信一郎

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